建築美 / 森と建築の対話
森を壊さず、森に宿る
夢織り杉の森のすべての建築物は、「自然を征服するのではなく、自然に学ぶ」という哲学のもとに設計されています。建物の配置は、既存の杉の木を一本も伐採することなく決定されました。根系への影響を最小限に抑えるため、一部の建物は地上から浮かせたスティルト構造を採用しています。
設計を手掛けたのは、東京を拠点とする建築家・森山健一郎氏です。氏は「建物が森の一部となり、やがて森に還っていく」というコンセプトを提唱し、地元の杉材・竹・天然石など、すべての素材を八王子近郊から調達しました。建物の外皮は、杉の樹皮と同じテクスチャーを持つ素材で仕上げられており、森の中に溶け込む外観を実現しています。
各施設のエネルギーは、敷地内に設置された小水力発電と太陽光パネルで賄われています。暖房には地中熱を活用し、化石燃料への依存をゼロにすることを目標としています。建物が生み出す廃水は、敷地内の植生浄化システムで処理され、森の灌漑に再利用されます。
内側からも森を感じる
建物の外観が森に溶け込むように、インテリアも「内なる森」をテーマに設計されています。床から天井まで続く大判ガラスは、室内にいながら杉の梢を仰ぎ見る体験を生み出します。家具はすべて国産の杉・桧・欅から職人が手で削り出したもので、木の節や年輪が自然の美しさをそのまま伝えます。
照明は太陽の動きに合わせて自動調光され、朝は清澄な白い光、夕暮れ時には暖かな琥珀色の光が空間を包みます。テキスタイルには奥多摩で生産された無染色の麻と絹を用い、森の中で眠るような感覚を演出しています。
各客室の壁には、八王子の伝統工芸「多摩織」の作品が一点ずつ飾られています。これらはすべて地域の職人によるオリジナル作品であり、当施設と地域文化の深い繋がりを象徴しています。
素材・光・循環の哲学
建材に使用する杉はすべて、八王子市内で適正に間伐された地産材です。伐採から加工、施工まで地元の職人が担い、材の特性を最大限に活かします。杉材は自然の調湿・消臭・抗菌機能を持ち、室内環境を清浄に保つ生きた素材です。木の香りそのものがウェルネス体験の一部となっています。
人工照明への依存を最小化するため、すべての空間は日射角度と季節変化を精密に計算したうえで設計されています。夏至の正午には直射日光が軒先で遮られ、冬至には室内の奥まで陽が差し込む仕組みです。光は静的なものではなく、時間とともに動き、空間に生命を吹き込む設計要素と位置づけています。
建物のライフサイクル全体を通じた環境負荷の最小化を目指しています。将来の解体時にすべての素材が自然に還るよう、接合には鉄釘ではなく木栓・竹ダボを使用。建物の老朽化とともに森に還っていく——それ自体がデザインの完成形であるという哲学です。
言葉ではなく、空間が語りかける
写真では伝わらない空気感、光の動き、杉の香り。建築の真価は、実際にその空間に立ち、深呼吸をした瞬間に明らかになります。ぜひご自身でお確かめください。
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